テレサ・テンの逝去直前にできた「新曲」が、「忘れないで」だった。もちろん、本人が歌うことは永遠になくなった。
鈴木章代氏は、この曲の完成時のことについて次のように述べている。
作曲の三木たかし先生には、日本語でも中国語でもフランス語でも歌えるようなメロディにしてくださいとお願いしました。作詞の荒木とよひさ先生には、恋や不倫といった要素をできるだけ省き、平易な言葉を用いた詞をお願いしていました。テレサが歌いやすいようにです。
三木先生は、大陸的なニュアンスを含ませた曲をつくってくださり、荒木先生は、厳選に厳選を重ね、言葉の持つ美しさや心の本質を引き出したような詞を書いてくださりました。テレサのゴールデンコンビ復活といったところでしょうか。
ただ荒木先生は、タイトルだけがどうしても決まらないとおっしゃります。
最終候補は二案あって、『泣かないで』と『忘れないで』のどちらにすればいいか、迷っておられました。どっちがいいかねえ、と私にも意見を求められます。
「そうですねえ、泣かないで、忘れないで……、泣かないでのほうがストレートのような気もするし、忘れないでのほうは深みがあるし、どちらも捨てがたいですね」
いずれも詞の内容にふさわしいタイトルでした。
先生とは、小一時間もタイトル案を話しあったでしょうか。最終的に、私は『泣かないで』のほうを推しました。天安門事件の犠牲者を悼んだとき、そして、中国の子供たちの未来を憂いたときがそうだったように、泣かないで、という言葉をかけてあげたほうがテレサにはふさわしいような気がしたからです。
「そうだな。じゃあ、タイトルは 『泣かないで』 でいこう」
先生も賛成してくださいました。
このとき、テレサの新曲は『泣かないで』に決まったのです。やっとできた、私はテレサと の約束を破らずにすんだという思いを胸に、急ぎ会社に戻りました。
「純情歌姫 テレサ・テン最後の八年間」(鈴木章代・著)より
結局、曲名が「忘れないで」となった理由は調査中。
忘れないで
作詞:荒木とよひさ
作曲:三木たかし
あなたの愛情の 深さに溺れたら
あしたが見えなく なってしまうから
このままそっと 自由に泳がせて
あなたは他にも 守るものがある
たとえこの恋が 哀しく終わっても
忘れないで わたしのことを
時が流れて 誰かに出逢っても
忘れないで 心の隅に
もう 夢の中しか 逢えないから
あなたの懐に とび込む勇気より
普通の人生 いつか選ぶから
想い出だけじゃ 若さは続かない
悲しくなるほど 愛が見えてきた
たとえちがう女性 恋しているときも
忘れないで わたしのことを
どんな未来を あなたが探しても
忘れないで 最後の約束
もう あなたのそばに いられないから
忘れないで わたしのことを
時が流れて 誰かに出逢っても
忘れないで 心の隅に
もう 夢の中しか 逢えないから
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