あるときは、打ち合わせの現場にスタッフのひとりが愛犬を連れてきたことがあった。白くて小さな洋犬は、買い主のそばを離れずおとなしくしていた。テレサはその犬がとても気に入ったようだった。
「かわいいですね。すっごくかわいいですね」
といいながら、犬をじっと見たり、さわったりしている。そこにいたスタッフ全員が犬に興味を示し終わったあとも、テレサは犬のそばを離れずに犬をなでたりしていた。
「テレサは犬が好きか?」
スタッフのひとりがいった。
そう聞かれたテレサは犬の後ろにまわりこみ、犬のお尻をのぞき込むようにしていった。
「えっ、犬、好きですよ。これとくにオスですから、オス」
不意なテレサの返しに、まわりにいたスタッフは大笑いしてしまう。
『追憶のテレサ・テン』(西田祐司・著)
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